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●●「湧水」54号・水神礼子(東京都)

 投稿者:東谷貞夫  投稿日:2013年 3月16日(土)18時43分59秒 e0109-49-132-66-225.uqwimax.jp
返信・引用 編集済
   水神礼子「そして、また風が吹いてくる」

 洗練された都会的センスにあふれていて、その煌めきは多彩な艶っぽいパステル画のような趣きがあります。裏通りの半身に構えた歪んだ考え方ではなく、社会と真正面から渡り合っての充実した人生観が漲っています。書き手も周囲に媚を売るつもりはなく、追いついてこれぬ読み手を切り捨てるほどの優雅な情念が隠されているようです。
 一年ほど前、友人の光代がなくなり、葬儀および偲ぶ会は盛大に行われ、光代の人柄や人間性また仕事に対する姿勢が評価されていた証ですが、それ以上に光代には損得を超えた魅力があって、その不可思議な磁場に呼び寄せられたのでしょう。
 この夏、四人の友人との偲ぶ会が開かれ、かっての光代の恋人であったTさんが手配しています。Tさんは気持ちの整理がついているようです。気の利いた鮨屋での食事の後、カフェ・バーで寛ぎ、長く広告代理店に勤めていたTさんの顔の広い一面が表れています。Tさんへの突っ込んだ質問もありましたが、男と女の内情は他人には理解できないところがあります。Tさんは海外支店の支店長であり、月に一度は帰国し、仕事を片付けると、光代と会い、美術館にフランス料理そして高級ホテルと数日の逢瀬を楽しみます。二人の間には美しい親和力が働いていたようです。光代は夫とは別居していて、やがて離婚しますが、Tさんと別れると、付き合うのは独身男になり、秘かな結婚願望があった気配です。体の不調に気づいたとき、すでに末期癌であり、にもかかわらず仕事関係者などの悩み事には真摯に対応し、あくまでさわやかな精気漲る生き方を貫いています。
 私の夫はそういう光代を突き放した立場で見ています。光代は精力的でかつ不思議な磁場で周囲の人々を魅了させていることを評価しながらも、普通の女が光代に憧れて、そのまねをすると、人生を踏み外すという考え方です。光代だからこそ不倫が素敵に映るのです。
 趣味のテニスで汗を流し、ひと休みしていると、涼しい風が吹いてきます。生きているからこの快い感触が味わえ、おそらく人それぞれに自分の気に入った風が頬を掠めているのでしょう。

 
 

●●「八月の群れ」56号(三)

 投稿者:東谷貞夫  投稿日:2013年 3月15日(金)14時32分11秒 e0109-49-132-67-226.uqwimax.jp
返信・引用 編集済
   野元正「年神さんの時間」

 バー「いさご」は田舎町の路地の奥にあり、戦争で焼け残った二階建ての古い土蔵造りであり、マスターの砂子邦夫は心療内科の看板を掲げていて、その医院はバーと同じ蔵屋敷にあります。白い壁の土蔵造りで赤い扉――ちょっと興味がわき、覗いてみたくなります。
 大晦日の日、花屋に勤めるナオは週に三回はカウンターに座っており、大晦日の常連になっています。雰囲気がよく、マスターの配慮も気に入り、ナオの秘かな棲家になっているようです。森が好きだった父親の面影、また花屋で一緒に働いていた雅也への想い、ナオにはそういう心の影を癒してくれる空間です。
 除夜の鐘が鳴り終わり、元旦の朝日を迎えるまで、その間に年神さまが現れ、そのご利益で新しい自分に生まれ変わります。マスターから琥珀色の迎春酒をいただき、ナオは茫洋とした豊かな気分になり、父親および雅也の姿が現れては消えてゆきます。
 窓から朝日が差し込み、ナオはソファーで眠っていて、マスターが毛布を掛けてくれています。森を創る仕事――ナオの夢が鮮明に蘇ってきます。
 バー「いさご」は謎めいたマスターの心遣いにあふれており、路地奥にあって世の中の汚れた善悪あるいは心の傷を浄化してくれる隠れたオアシスです。この店のお客はすてきな年神さまに守られるでしょう。この書き手の慈愛に満ちた筆運びには思いやりと優しさがこめられていて、趣き深い作品に仕上がっています。
 

●●「八月の群れ」56号(二)

 投稿者:東谷貞夫  投稿日:2013年 3月15日(金)10時39分8秒 e0109-49-132-71-19.uqwimax.jp
返信・引用 編集済
   追洲流之「遠い青空」(約150枚)

 構想力の羽ばたくスケールの大きな叙事詩です。
 ゴビ砂漠の北の草原の遊牧民族には、メルキトやナイマンまたケレイトなどのさまざまなモンゴル部族が割拠しています。テムジンとジャムカは政変で国を追われ、ケレイト部族の支配者のトオリルの許で育てられています。十歳の育ち盛りです。トオリルはいつも青磁の器で馬乳酒を飲んでいて、早く起きた方にこの器で飲ませてやる――トオリルはそう約束すると、テムジンにはジャムカよりも早起きの習慣があり、いつも空の青に似た器で馬乳酒を頂いています。二人を比較すると、テムジンには不思議な磁場があるようで、人が集まってきますが、ジャイムカは組織に似合わず、たえず孤高の影を背負っています。
 テムジンにとってジャムカは義兄弟であり、また好敵手ですが、天の神はテムジンに微笑み、テムジンは一二〇六年にすべてのモンゴル部族を統一し、モンゴル帝国ができ、チンギウ・カンと名乗ります。チンギスは海の精霊を表し、その色は青磁の器に対応しており、トオリルの愛用した酒の器が偲ばれます。
 モンゴル部族の盛衰を描き、チンギス・カンの誕生までの大叙事詩です。物語の主人公はテムジンではなくジャムカですが、テムジンよりも優れた能力がありながらも現実の政治あるいは戦闘からいささかずれたジャムカの不運に焦点を当てていて、そこには書き手の人柄もしくは人間味がうかがえます。ジャムカの心境に深入りしすぎている印象であり、冷徹にジャムカを突き放した方が緊張感の漲る引き締まった物語になっていたような気がします。
 

Re: ●●「文藝軌道」2012 10月号

 投稿者:野上卓  投稿日:2013年 3月14日(木)12時52分41秒 softbank219195131113.bbtec.net
返信・引用
  > No.62[元記事へ]

東谷様
真摯な批評ありがとうございます。
ものたりないと言われるとそうかもしれませんね。
重厚なのが最近書きにくくて、幻想っぽく
流してしまいました。
とくに結末が全体を軽くしているのでしょうね。
 

●●「八月の群れ」56号・大森康宏(大阪府)

 投稿者:東谷貞夫  投稿日:2013年 3月14日(木)11時48分1秒 e0109-49-132-71-19.uqwimax.jp
返信・引用 編集済
   大森康宏「カリマンタンのサザンクロス」(約120枚)

 主人公の三郎の父親は浅草の芝居小屋の雑用係で定年を迎え、今は別の小屋で働いていて、母親も内職に手を染めています。貧しい家庭で育った三郎はバーで働きながら大学に通い、友人の安田膳次郎がマレーシアから逃げてきた女の相談相手になり、三郎はスティー・タヌジャヤを通じて東南アジアに興味を抱き、高校の先輩の田代が南海興産のジャカルタ支店長をしており、三郎は南海興産に入社します。この小説はスカルノ政権の末期のインドネシア情勢を背景にしていて、スティー・タヌジャヤがストーリーのきっかけの役目を果たし、書き手の高度な計算がうかがえます。
 インドネシアのインフラのために一億五千万ドル相当の円借款が実行され、百五十万ドルが建設機械の予算で、南海興産は政府要人や公共事業省などに手を回し、ナイトクラブの接待また女の斡旋など、あらゆる手段を尽くします。ようやく百五十万ドルの商談がまとまった頃、スカルノ大統領が倒れ、クーデター説が飛び交います。スカルノは陸軍とPKI(インドネシア共産党)とを巧妙に反目させ、そのバランスの上で権力を拡大してきました。9月30日、PKIが陸軍を襲撃し、権力を握ったものの、陸軍のスハルト司令官は一夜にしてPKIを殲滅させ、共産党の弾圧がはじまります。政情の急激な変化で、南海興産の契約は破棄され、ジャカルタ支店は閉鎖され、田代支店長は懲戒処分を受け、政治絡みの理不尽な闇の意思が働いたのでしょうか。
 三郎は前途を悲観しますが、同僚だったハムダニとウトモ岡田に声をかけられ、カリマンタン(ボルネオ)での油ヤシ農園の事業に参加します。先輩の田代が豊富な人間関係を活用して動いたようです。三郎の新たな挑戦がはじまります。
 この書き手は視野が広く、柔軟な筆遣いであり、しかもストーリーの時間は先に進んでいて、その技倆は非常にレベルが高く、群を抜いています。構成や構想力そしてストーリーの展開などに熟成された味わいがあり、本格的な書き手としてどこでも通用するでしょう。エンタテイメントとして軽んじるのは文学音痴の僻みです。
 

●●「文藝軌道」2012 10月号

 投稿者:東谷貞夫  投稿日:2013年 3月13日(水)17時47分51秒 e0109-49-132-74-158.uqwimax.jp
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   野上卓「駅におりてから」

 私はローカル鉄道の小さな駅に降りますが、気まぐれのようなものです。無人駅で、駅前には床屋に土産物店そしてお食事処の看板が見えるものの、商売をしている気配はありません。近くを歩いてみると、林の中に迷い込みます。戻り道はひどいぬかるみになっていて、円形の広場に出てしまい……
 現実の迷路か、意識上の迷宮か、不思議な世界が描かれていますが、結局、主人公の私は下りた駅に辿り着き、目的地とは逆の方向の列車に乗ります。乗客は私だけで、四人掛けの座席に足を投げ出すと、急に眠気に襲われ、眠ってはならないという声がするものの、眠ってしまいます。目覚めると、普通の一日がはじまる、という夢を見ます。
 書き手の意識の断片としてのひと捻りは面白いのですが、どうも物足らない気がします。このような断片を積み重ねるよりも、もっと大きな構想力の発揮を期待します。 
 

●●映画「点と線」(松本清張)

 投稿者:東谷貞夫  投稿日:2013年 3月12日(火)11時28分10秒 e0109-49-132-74-158.uqwimax.jp
返信・引用 編集済
   制作:東映、1958年。
 監督:小林恒夫
 出演:南広、山形勲、高峰三枝子、加藤嘉、など

 福岡の香椎の海岸で男女の死体が発見され、捜査本部は心中事件と見做しますがベテランの鳥飼刑事は疑問を抱き、そこから物語がはじまります。昭和三十年代の初めであり、その当時の社会状況が織り込まれ、重厚で見応えのある作品です。
 死体の発見現場で鑑識課員が吸った煙草を投げ捨て、駅前の果物屋は9時半を過ぎても店を開いていて、また電話の騒がしい呼び出し音があり、料亭では役人の接待が盛んでもあって――すべての情景に懐かしさを感じます。特急寝台車の「あさかぜ」は東京から博多まで約十七時間もかかり、昼前に着くので東京からのビジネスマンを想定していたのでしょう。
 官庁の課長補佐の佐山と赤坂の料亭のお時とは何の関係もなく、お時は安田辰郎の愛人であり、安田は官庁に出入りする機械工具の業者です。汚職捜査を警戒する部長の指示で、全貌を知っている佐山を消すことにしたわけです。安田の妻の亮子は結核であり、暇をもて余して時刻表に詳しくなり、東京駅の13番ホームから15番ホームの「あさかぜ」が見えるのはわずか4分間であり、それをうまく利用したのです。佐山とお時が仲良く「あさかぜ」に乗り込む姿をお時の同僚の仲居が目撃しますが、安田の企みです。三原警部補は亮子の部屋で時刻表に気づき、捜査対象外の亮子の別の顔を見出します。佐山の心中事件の相手はだれでもよかったのですが、夫の愛人のお時を恨んでいて、彼女を選んだのでしょう。
 安田には北海道出張というアリバイがあり、捜査本部の総力を結集して鉄壁なアリバイを崩します。三原警部補の執念です。飛行機の利用はその頃では一般的ではなく、これも盲点になっていたようです。香椎駅には二組の男女がいたという発見は鳥飼刑事の地道な努力の成果です。
 亮子は捜査の手が自分に迫っているのに気付くと、鎌倉の療養先から阿佐ヶ谷の本宅に戻ります。完璧だったアリバイが崩れ、もはや逃げ場がなくなったのです。夫の安田との無理心中で幕が閉じます。
 安田辰郎を演じる山形勲はこの映画の中核であり、紳士の表情に隠された悪徳を巧妙に演じています。
 

●●「水戸評論」132号(茨城県)

 投稿者:東谷貞夫  投稿日:2013年 3月10日(日)20時32分7秒 e0109-49-132-77-122.uqwimax.jp
返信・引用 編集済
   仁科修治「仁科修治訳詩集」(六)

 原文と日本語との葛藤、そこにみずからの精神を溶解させ、一度は不純物にあふれて汚れた泥水のような様相になりますが、女神の声が届き、乱れた醜塊な言葉はやがて浄化され、詩情の輝きに満ち、人の心にいつしか忍び込み――訳詩のひとつのたとえになりそうです。
 ポール・ヴァレリーの「失われた葡萄酒」が訳されています。
  ●いつの日のことであったか、大海原に
   (どこの空の下であったか、いまはもう覚えていない)
   私はそそいでやった、ほんの少しの、貴重な葡萄酒を
   虚無に捧げる供物にと
   ……
   ……
   この葡萄酒が消えたとき、酔ったのだ、波が!……
   私は見た、潮風の中へと踊り出る
   いと深きものの形の数々を……

 最初の四行と最後の三行ですが、いと深きものの形とは何か、創作へと誘う魅力があります。

 その他にボードレールの「万物照応」や「秋の歌」などが訳出されています。それぞれ、訳者の訳し方にまつわるコメントがあり、先人の訳者との格闘の跡が偲ばれます。

 

●●「くれす」8号(二)

 投稿者:東谷貞夫  投稿日:2013年 3月 9日(土)19時25分25秒 e0109-49-132-52-246.uqwimax.jp
返信・引用 編集済
   岡紘一郎「隠しごと」

 適切な筆遣いで、読みやすくてわかりやすく、才覚とか個性の強さとかの問題とは別に、書き手のひたむきな文学の歩みが表れています。語り手の俺は高校教師を退職し、古希を迎え、妻との二人暮らしです。妻の芳子は民生委員などをしていて、独り暮らしの高齢者の生活改善に努力しています。俺は庭の昔の小屋を潰し、プレハブの実験室を造り、そこで麹菌と酵母を巧みに操り、密造酒を作っています。夫婦の関心は別の方向に向かっているものの、さわやかな愛情が漂っているようです。
 化学実験室で作業をしていると、俺は数か月前の同窓会の宴会を思い出します。住職や本屋のオーナーがいて、角が取れておおらかになっており、年月の浄化作用でしょうか。また呆け防止のために高齢の先生が四国八十八箇所の霊場を暗唱する姿を見て気持ちを揺るがします。七十歳代の世代はまだまだ溌剌としているようです。酒造りの合間にそういう懐かしい顔ぶれに触れていると、気分が充実し、何時間かの後に、蒸留酒ができ、やはりその味が気になります。近所の人には内緒であり、遠くの友人や昔の教え子に試飲してもらっています。
 主人公の俺は在職当時の常識や約束事に囚われず、むしろ七十歳代になって視野が広がってきているように感じ、おそらくそれはもっと旨い酒造りを目指しなさいという天の声かもしれません。ストーリーの流れさらに同窓会の回想の描き方などには熟練の技が滲んでいます。
 
 

●●「くれす」8号(大阪府)

 投稿者:東谷貞夫  投稿日:2013年 3月 9日(土)14時45分39秒 e0109-49-132-52-246.uqwimax.jp
返信・引用 編集済
   緒内返「こうくぼうさん」

 歯切れのいい文章に上品な趣きが織り込まれ、しかも描く対象をしっかりと捉えていて、書き手の長年の修練がうかがえます。理屈からちょっと外れた基調は妙な魅力を秘めており、異質な感性が読み取れます。
 トキエは七十二歳ですが、ずっと独身であり、駅の売店に勤めています。急に雨が降ると、ビニール傘はよく売れ、五年ほど前、傘が売り切れた後に買いに来る老人がいて、トキエは興味を抱き、家の傘を用意して待っていると、やはりその人が駆け込んできます。これがきっかけになり、トキエは香公方(こうくぼう)と名乗る男と住はじめ、七十歳を越えていて、毎朝、彼は仕事に出かけ、詳しくはトキエも知らないようです。心地よい磁場に守られ、世間の空気や香りとは違う雰囲気です。しかし、一年ほどすると、彼は戻ってこなくなります。エリという白髪の品のいい女性が訪れ、香公方のことを尋ねますが、彼は精神的な迷彩色で正体を隠していて、この辺りは書き手の優れた描写力が発揮されています。
 得体のしれぬ香公方はトキエの心の奥深くに棲みついているようです。いささか奇談めいた面白さがあり、書き手の異質な感性は貴重でしょう。
 
 

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